小学生の大キレット挑戦(前編)~親子テント泊登山

北穂高岳

2021.9.19~9.20、槍ヶ岳を中心とする大きな地震があった日。僕とソウタは、あの日あの場所にいた。目標だった大キレットをソウタと二人で歩く為に。様々な出来事が起きた2日間の記録。

目標だった大キレット越え


数年前から目標にしていた「大キレット越え」。国内一般登山道では最難関ルートになる大キレットを、ソウタが小学生のうちに一緒に歩けたらいいなと。挑戦を決めたものの天候に振り回されて2年続けて断念。小学生最後の2021年9月、念願叶い、やっと行くことができた。

久しぶりに上高地に降り立つ。前回は2018年の奥穂高岳だから3年振りだ。幼稚園の頃から何度か訪れているソウタも、今は6年生。今回の目的は、大キレットを越えて北穂高岳の頂に立つこと。ワクワクする気持ちと少しの緊張が入り混じる。

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初日のテン場「南岳小屋」へ向けて出発。南岳は、5年前の9月に一度登っているので気持ちに余裕あり。とは言え、距離にして20km強、標高は3000mオーバー。そんなに簡単ではない。初日は必ず寝不足スタートなので、前回は横尾尾根で軽く高山病になった鬼門コース。今回はすんなり登りたいのだが…

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いつ来ても雰囲気抜群の徳澤園。いつかのんびりとテント泊してみたい場所。そう思いながら数年が経つ…

横尾を通過し、槍沢方面へ。6年生ともなるとペースも早く、順調な歩き出し。ほとんど休みもとらずに歩いたので、この先の槍沢ロッヂでリュックをおろしてがっつりと休憩した。

想像以上の好天で嬉しいのだけど、大曲から先は日陰も少なく、熱中症が気になる。しっかり水分とっておかないと、また横尾尾根でやられてしまうそうである。

荷物を少なくする小屋泊も考えたけど、いつも通りテント泊装備を持って大キレットを歩くことにした。タープテントが1.3kg、キュムラスの寝袋も400gと軽いから、そこまで負担がないんだよね。今回は、大キレットを歩くのに邪魔になるクローズドセルマットの外付けを止め、2人ともインフレータブルマット。違うのはそれくらいかな。ソウタは、基本装備に昼食と自分用の水なんかで4kgほど。テント・夕食・水なんかの重い荷物は僕が背負ってる。

目の前に槍ヶ岳ドーーン!前回はガスっててこの景色を見ることはできなかったけど、やっと拝めた。槍ヶ岳ブルーってやつだ。素晴らしい景色。槍ヶ岳山荘もはっきりと見えた。

9月にもなるとチングルマもご覧の通り。僕はこの形状も好きだけど。

天狗原分岐を天狗池方面へ。せっかくのド快晴なのでソウタと槍の2ショット。

無事、天狗池に到着。天狗池と逆さ槍もご覧の通り素晴らしすぎる。ここまで順調すぎて、逆に何か起こるんじゃないかと不安になる。

バーナーが使えない…

その不安が的中するのだけどw、天狗池でランチの予定が、ここでちょっとしたトラブル。いや大きなトラブルだ。持参したガス缶がバーナーに合わない!いつものプリムス缶が売ってなくて、今回はジェットボイル缶にしたんだけど、それが手持ちのバーナーに合わず。バーナーの一部が邪魔になって、ガス缶が根本までハマらず、ガス漏れ状態。

昼食だけが食べられないなら良いけど(良くはないw)、ガスが使えないってことは夕食も食べられないってこと。つまりは、引き返すことも考えなきゃいけないレベルのトラブルってことだ。うーん、ここまで来て撤退なんて・・・。

とりあえず手持ちの行動食で南岳までは登れそうなことをソウタと確認。夕食は予備のパンをかじれば朝まで持つだろう。それにしても甘い物ばかりなのは反省しなきゃ。火を使わずに食べられるしょっぱい系は入れておかなきゃだな。

南岳小屋でガス缶が買えれば、全ての問題は解決。買えない場合は小屋の夕食頼み(確か豚汁セットがあったような)。それもだめなら大キレットに向かわずに翌朝下山する。とにかく南岳小屋まで行って、現地判断することにした。

天気が良すぎて…、幸い水に困ることはなかったんで、水分をたっぷり補給しながら横尾尾根を登りつめる。ソウタ、お腹すいてるよなぁ。申し訳ない気持ちでいっぱいだけど、文句ひとつ言わずに前に進んでいく6年生。こういうとこ、ホントに尊敬する。

写真を撮るのも好きなソウタ。彼の撮った写真にこんな奇跡の一枚が。殺生ヒュッテだけに陽が射している。

明日、登れるかどうかわからなくなった北穂高岳が見えた。できることなら、目標だった大キレットを越え、北穂高岳の頂に立ちたい。強く願う。

前回、横尾尾根に乗ってから軽い脱水症状というか高山病でキツかった。南岳小屋に着いて、すぐにテントで横になったくらいフラフラだった。今回は、お腹が空いている以外、それほどキツく感じることはない。

いくつか梯子や鎖があるから慎重に。

2回目の南岳(3033m)に登頂!ガス缶トラブルはあったけど、こうして南岳に辿り着けて良かった。山頂には数名。写真をお願いしました。ありがとうございます。

南岳小屋に向かうこの光景が好き。奥に穂高、手前に小屋とテント場。そこを歩く子供。こんな場所まで良く歩いてきたね。って特別な感じがするから。

タープテントRainShadow3を設営。これは見た目以上に手軽に設営できるテント。軽量でもあるから僕は気に入っている。が、シングルウォールなので結露が凄い。色々濡れてしまうので、シュラフカバーを使うとか化繊シュラフを使うなどの工夫が必要だと思う。今回は軽量化でキュムラス2個だけど、7月~8月だったら濡れに強い化繊シュラフにしたと思う。

子連れテント泊に最適かもしれないTarptent Rainshadow3

ポーランドの老舗シュラフメーカー、キュムラス Cumulus X-LITE 200 ZIP

まずは乾杯。お昼も満足に食べてないけど、よく歩いたよね。

さて、ガス缶トラブルの続き。小屋にガス缶が売っていたんだけど、なんとジェットボイル缶w。まさかの結末に呆然。小屋の夕食も頼めず万事休す。テントでソウタと明日帰ろうと話していたら、それを聞いていたお隣さんが、余分なガス缶をどうぞって。救世主現る。寧ろ新品のジェットボイルと交換して欲しいくらいなんだけど、2人でいらしていて、足りているからどうぞって。涙が出そう。

おかげさまで夕食を食べることができた。これなら翌朝も大キレットを歩けるぞ。なんて喜んでいたタイミングで、あの地震が・・・

地震、そして

僕とソウタは小屋でジュースを買っていたんだけど、突然大きな揺れ。一瞬、よろけるほどに。けっこう大きいと思ったけど、何かが崩れたりするわけでもなく、それほど気にすることはなかった。南岳は槍ヶ岳の南側に位置し、大喰岳・中岳の隣に南岳。距離も数kmしか離れていないし、震源地のすぐ近くではあったはず。でも、なだらかな山容なので槍ヶ岳や涸沢ほど、落石の音が凄いわけじゃなかった。下の方の登山道で落石しているのは理解できたけど、その程度。他の人はわからないけど、僕はこの時点で、よくある地震としか思っていなかったのは事実。

電波も悪く(au)、twitterもニュースも見れなくて、隣の方が、岐阜の飛騨で震度3くらいと言っていた。飛騨も広いからねーなんて会話。まさかここが震源地とは思わなかった。本当に、南岳小屋は切迫した感じがなかったんだよね。

震源地と震度を知ったのは翌日。槍ヶ岳山荘の震度計5だったこと、twitterで北鎌の動画や殺生ヒュッテ・涸沢の落石動画などを見たのも翌日の下山後。涸沢ではテラスに避難したり。僕も現場にいたらソウタを連れて早々に下山していたのは間違いない。

中日新聞デジタル編集部youtubeから

地震があったことを忘れてしまうほど。綺麗な夕焼けをソウタと2人眺めていた。

持参したインドの青鬼で乾杯。荷物を減らしたので、残念ながらグラスなし。久しぶりに缶飲みした。

笠ヶ岳に日が落ちていく。明日は予定通りに大キレット。地震は気になるけど、朝起きて天気が良く、余震が収まっていれば、他の登山者の動きなどを見てから判断しようと思う。

テントに入って寝ていると、余震が凄い。かなりの頻度で揺れている。地面を伝って揺れがダイレクトにくるんだけど、そんな状況でもソウタが爆睡しているのは、ちょっと驚いた。なんて強いんだ(鈍い?)と正直羨ましかった。

この時、槍ヶ岳や涸沢で、あんな状況になっているなんて思いもよらず。真っ暗なテン場でものすごい落石音を聞いたら、きっと生きた心地がなんてしないだろう。

余震が気になり爆睡はできず。寝たり起きたりを繰り返し、南岳小屋での夜が更けていった。22時を過ぎる頃には、余震も落ち着いていたと思う。朝まで気になるほどの揺れはなかった。

後編に続く

小学生の大キレット挑戦(後編)~親子テント泊登山